60人以上を殺害した殺人鬼の処刑は、酷く呆気なく執行された。怯えた刑務官の推したボタンは、男の足元の床をがたりと開かせ、頚椎を重力頼みに砕き折った。
そんな男が、『アル・バーティッシュ』の名前で転生した異世界は――――あらゆる食材が、人の手を加えるまでもなく、あまりにも美味過ぎる世界だった。故に、その異世界では『料理』という概念が発生しておらず、前世の記憶を持ったアルの技能は貴重なものだった。
そんなアルが働くのは、グリルレッド王国の一角に聳える刑務所。彼はそこで、死刑囚への最後の餞、『ラストミール』を振る舞うことを生業としていた。
彼の傍らにいるのは、半裸の美少女。一人称や口調すらまともに定まらない彼女と共に、生き延びるべく足掻きたがる死刑囚を堕とす為の料理の香が、厨房の中に今日も漂う……。